伊豆でキンメを食うなら下田、と思ってる人は多いだろう。だが東伊豆町の稲取には「稲取キンメ」っていう別のブランドがあってな、こっちは地域団体商標に登録された正式なブランドだ。同じ伊豆のキンメでも、獲り方も扱いも値の付き方も違う。船長がその違いを整理しておく。
「稲取キンメ」の定義は漁法と時間で決まっている
ブランドといっても、稲取で揚がったキンメなら何でもそう名乗れるわけじゃない。東伊豆町の説明では、立縄釣り(一本釣り)漁で丁寧に扱い、日戻り操業と船上からの水氷保存により品質を管理したもの、と条件が決まっている。
日戻り操業ってのは、日の出から漁を始めて、午後4時までに入港するやり方だ。何日も洋上に出ずにその日のうちに戻る。だから水揚げされた時点で魚がまだ新しい。獲った端から船上で水氷に入れるから、港に着くまで温度が上がらない。
網でまとめて獲るのではなく、釣りで1尾ずつ揚げるのも大きい。魚体に傷が付きにくく、身の傷みも少ない。手間はかかるが、そのぶん値が付く。
立縄釣りという漁法
立縄釣りの仕掛けは、全国漁業協同組合連合会の説明によると1本の道糸と幹縄の先に枝縄と釣り針を付け、一番下に2〜3kgの鉄筋の重りを付けた漁具だ。深いところにいるキンメを、この仕掛けを垂らして狙う。
漁場は伊豆半島の周辺と、伊豆大島から神津島にかけての西側。伊豆はこの好漁場が近いおかげで日戻りが成り立つ。産地としての強みは、実はこの「距離」にある。
資源の管理も決めごとがある。夜間の操業は禁止、体長28cm以下は再放流といったルールが敷かれている。獲り尽くさない前提で回している漁だ。
下田のキンメとは何が違うのか
ここが一番聞かれるところだ。伊豆半島のキンメには漁港ごとのブランドがあって、プライドフィッシュでは「須崎の日戻り金目鯛」「稲取キンメ」「伊東の地きんめ」の3つが挙げられている。須崎は下田市だ。つまり下田側のブランドは「稲取キンメ」ではなく「須崎の日戻り金目鯛」ということになる。
そもそもキンメには獲れる海域と獲り方で地きんめ(ジキンメ)・島きんめ(シマキンメ)・沖きんめ(オキキンメ)の別がある。伊豆の日戻りで揚がるものが地きんめで、稲取キンメも須崎の日戻り金目鯛もここに入る。値も味も、この区別で変わってくる。
だから「稲取と下田、どっちがうまい」という聞き方はあまり意味がない。どちらも同じ地きんめで、漁港ごとに自分たちの基準を決めてブランドを守っている——そう捉えるのが正しい。旅の途中でどちらの港に立ち寄るか、という話だ。
下田側で食べるなら下田で金目鯛が食べられる店まとめに煮付け・海鮮丼・干物と食べ方別に整理してある。下田を1日で回るなら下田1日観光モデルコース、テレビで紹介された店から選ぶならせっかくグルメの金目鯛・海鮮の店まとめを見てくれ。
旬は12月から2月
キンメは通年揚がるが、旬は12月〜2月とされている。皮下の脂がのって、味が濃くなる時期だ。深紅の魚体と大きな眼が特徴で、この金色に光って見える眼が名前の由来になっている。
この冬の旬が、稲取のもうひとつの看板と重なるのがいい。雛のつるし飾りまつりは1月から3月にかけて開かれる稲取発祥の行事で、キンメの旬とほぼ同じ時期だ。冬に稲取へ行くなら、この2つは自然に一日の中でつながる。
朝市でキンメの釜めしを食う
稲取キンメを出す店は漁港の周りに何軒かあるが、その日の水揚げで扱いが変わるから、店を決め打ちで行くなら電話で確かめてから動いたほうがいい。品切れじまいは珍しくない。
確実に手軽なのは「東伊豆まち 港の朝市」だ。東伊豆町役場の庁舎駐車場で、毎週土・日・祝日の朝8時から12時まで開かれている。伊豆稲取駅から徒歩10分。名物はキンメの釜めしで、キンメのみそ汁も募金形式(30円)で出る。朝のうちに港へ降りて、炊きたての釜めしを食う——これが稲取の一番わかりやすい入り口だ。
買って帰る・送る
稲取キンメは煮付けや味噌漬けに加工した商品も出回っていて、東伊豆町のふるさと納税の返礼品にもなっている。生の一尾を持ち帰るのが難しければ、加工品を選ぶ手もある。
ただし「稲取キンメ」と名乗れるのは前述の条件を満たしたものだけだ。土産物を選ぶときは、稲取漁港の水揚げかどうかを確かめるといい。同じ「金目鯛」の表示でも、島きんめや沖きんめが混じることはある。
行き方
稲取へは伊豆急行線の伊豆稲取駅が最寄りだ。下田からも熱海からも伊豆急1本で行ける。港と朝市の会場は駅から徒歩圏にある。
車なら国道135号沿い。冬の週末は雛のつるし飾りまつりの時期と重なると混むから、朝早く動くのが得策だ。
出典(2026年8月15日確認)
Photo: Asturio Cantabrio (CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons